リニューアル準備中です・・・しばらくお待ちください
スポンサーサイト”もう一つの世界”への架け橋―そこは正に「漆黒の闇」と呼べる空間だった。
ティーダは、ドス黒い渦の中に飲み込まれてしまいそうな感覚に耐えながら、マリーの残留思念を探していた。
精神を研ぎ澄まし、彼女の辿った後を懸命に洗い出す。
すると、目の前に見覚えのある女性の後ろ姿が、ぼんやりと映し出された。
それは間違いなく、あの宮廷魔術師・マリーのものだった。
『…見つけた!!』
ティーダは、心の中でそう叫ぶと、見失わない様に、慎重にマリーの残留思念を追尾していく。
時折、変則的な動きになる思念に慌てながらも、ティーダは確実に”もう一つの世界”へと、歩を進めていった。
やがて彼の周りの空間が徐々に明るくなり、生暖かい風が頬をかすめる様になってきた。
そして、唐突に視界が開け、其処にティーダの「知らない」世界が姿を現した。
「此処が……もう一つの世界……!?」
ティーダは、自らの目に焼き付けるように、辺りの風景をゆっくりと見回した。
その世界は、クリスタル・ワールドと同様に、青い空が広がっていた。
だが、大地は比べ物にならない程に広く、大小様々な建造物が、そびえ立っている。
「文明レベルは、ボク達より上だ…でも、魔力を感じられない……此処には、マナが存在しない…?」
クリスタル・ワールドでは、当たり前のように存在する、魔力とマナの匂いを全く感じ取る事が出来ずに、ティーダは戸惑いの表情を浮べた。
自分はとんでもない世界にやって来てしまったのではないか、という不安が彼の心を曇らせていく。
だが、その時―。
『…ダ……ティーダ………聞こえます…か…?』
ティーダは、我が耳を疑った。
聞こえる筈の無い、リュースの声が、微かに響き渡ったのだ。
彼は、慌てて辺りを見回した。
「リュ、リュース様っ!?」
『…ああ、良かった…なんとか届きましたね』
「や…やっぱり聞こえる…リュース様なんだね!!」
ノイズ交じりの返答が聞こえ、ティーダは、空耳では無い事を確信し、僅かに笑顔を見せた。
『…魔動技術士たちが、残ったクリスタルで、一時的な連絡手段を設けてくれたのです…。ですが、あまり時間を割けないので…手短に話します…よく聞いてくださいね?』
「うん、リュース様」
『まず今から、我が王家に伝わる、2つの道具を転送します……ティーダの位置を正確に知りたいので、意識を集中させて下さい…』
「わ、わかった…!!」
ティーダは、リュースの言葉通りに、全意識を集中させる。
すると、彼の目の前の空間が僅かに口を開け、何かが飛び出し、遠隔操作がされているかの如く、ティーダの両手へと収まった。
彼は自分の手の中にあるモノを見つめた。
それは、燃えるように紅い色を放ち、美しい装飾が施されたスティックと、クリスタル・コアと同じ色をした宝石があしらわれたペンダントだった。
「リュース様…コレは…?」
『…そのスティックとペンダントは、父上と母上から頂いた宝物です…。ペンダントには、クリスタル・コアの一部が埋め込まれているので、魔力が使えないその世界でも、ティーダは自分の力を発揮できる筈です』
「やっぱり…この世界では魔力が…!?」
『…マリーはそう言っていました……その世界には、マナが存在しないのでしょう…』
ティーダの心に、黒いモノがよぎる。
此処は、やはり自分の知らない、遠い最果ての地だという事を認識させられた気分になった。
しかし、彼は首を振って、自らを奮い立たせ、もう一つの”宝物”について尋ねた。
「…リュース様、このスティックの方は…?」
『それは、一時的にですが、魔力を持たない人間に、マナの力を授ける事が出来るアイテムです……相手は、クリスタル・コアを持った魔術師です…まともにぶつかれば、勝ち目は無いでしょう…だから、協力者を探すのです…』
「き、協力者って……この世界の人って事!?」
『そうです…どんな世界でも……正しい心を持った人はいる筈です……僕達の世界と、其方の世界が危機に瀕している事を知れば、必ず協力してくれる筈です…』
「で、でも…」
『大丈夫です…ティーダなら出来ます……もう時間が無いのです……魔動技術士は、代用のクリスタルを使って、なんとか世界を安定させていますが、永くは持たないでしょう……ティーダ…貴方とその世界の人だけが、唯一の…希望な…ので…す…』
「リュース様!!」
リュースの声が途切れ途切れになる。
もう、クリスタルの力が失われているのかも知れない。
ティーダは、両手の拳を握り締め、力強く叫んだ。
「わかった…!! ボク、頑張る!! クリスタルワールドも、この世界も救ってみせる!!」
「た…の……み…ま……ティ………ダ…」
リュースの声が、完全に途切れた。
ティーダは、もう一度手の中のスティックとペンダントを見つめ、そして小さく頷いた。
と、次の瞬間―。
ティーダの小さな身体が、ガクンと揺れる。
そして、真っ逆さまに落下し始めた。
「うわわわわわわっっっ!?」
ティーダは完全に忘れていた。
自分が飛び出していた空間は、遙か空の上だったという事を。
全身を、もの凄い勢いで風が切り裂いていく。
「わわわわっっっっ!!! な、なんとかしないとっ…!!」
きりもみ状態になりながら、最善の策を考えるティーダ。
その時、一つの考えが閃いた。
『そ、そうだ!! この世界で空を飛べる動物に変身すれば…!!』
ティーダは、そう思いつき、頭の中に生物の姿を浮べた。
しかし、勘の良い人はもう気が付いたと思うがのだが―。
「って、ボクこの世界の動物なんか知らないぁぁぁぁぁいいっっっっ!!!!」
ティーダの絶叫がこだまする。
到着早々、生命の危機に瀕する彼の運命や如何に?
激しい振動の中、リュースは”コアの間”と呼ばれる場所へと急いでいた。
壁や柱に寄りかかり、何度も転びながらも、彼は目的地へと歩を進めた。
迷路のように入り組んだ回廊をひたすら前へ進んだ。
この世界を崩壊へと誘う元凶を突き止める為に。
やがて、永遠にも思える時間を掛けて神殿を抜けたリュースの目の前に、ようやく”コアの間”が姿を現した。
数十メートルはあろうかという、巨大な鉄の扉が圧倒的な威圧感で、彼を迎える。
リュースは、額に浮かんだ大粒の汗を拭い、辺りを見回し―戦慄した。
鉄扉の周囲に、バラバラに引き千切られた鎖が散乱している。
これは、扉を封印するために、神殿に仕える宮廷魔術師たちが施した、強力な魔法の鎖だ。
それが、何者かの手によって、破壊されているのだ。
『”コアの間”の扉の封印が解かれている…!?』
彼の脳裏に、最悪の考えが過ぎる。
そして、ラーラの言っていた言葉が、フラッシュバックで蘇る―。
『マリーが……宮廷魔術師のマリーが……!!』
リュースは、すぐさま扉に駆け寄ると、渾身の力を込めて、押し開けた。
重厚な音を立てながら、ゆっくりと開いていく扉。
顔を歪ませながら、なんとか扉を開けきったリュースの前に、とんでもない光景が飛び込んできた。
”コアの間”と呼ばれる部屋―その中央に、見事な装飾が施された、金の台座が鎮座していた。
台座からは、数十本の赤い管が伸び、部屋の四方の壁に設置されている、美しい結晶石に繋がっている。
そして、台座の中央には、それらの結晶石よりも遼かに巨大なクリスタルが置いてある…筈だった。
だが、そのクリスタルは、台座には無く、女性の手の中にあった。
クリスタルを手にした―いや、正確には手の平の上に浮かばせた、と言った方がいいだろう―若く美しい女性。
艶めくブロンドの髪、緑色の魔石をあしらったサークレット、そして宮廷魔術師の証である、紅色をしたローブをまとっている。
女性は、妖艶な笑みを浮かべ、クリスタルを見つめていた。
「マ……マリーッ!!」
リュースの叫び声が”コアの間”に響く。
マリーと呼ばれた女性は、ゆっくりと、彼の方を見やった。
「オーホッホッホ、これはこれはリュース様。遅かったですわねぇ?」
「マ、マリー…一体、コレは何の真似ですっ!?」
「何の真似…? 見ての通りですわ。この”クリスタル・コア”を頂きに来ましたの」
悪びれる様子も無く、マリーは言い切った。
「頂く…!? マリー、それを台座から外したら、この世界がどうなるか知らないのですかっ!?」
「あらあら、勿論知っておりますわ…。この”クリスタル・コア”は、この世界の魔力を司る、言わば「心臓」のようなモノ。それを台座から外せば、この地を形成する浮遊大陸は、その力を失い、また大気中のマナも枯れ果てて、やがて世界は終焉を迎える…というワケですわ」
「その通りです!! それを知っていながら…何故!?」
マリーは、リュースの問いに不敵な笑みを浮べた。
「オホホホ…良いですわ、リュース様には特別に教えて差し上げましょう。わたくし、長年の研究で、この”クリスタル・ワールド”の他に、もう一つ、わたくし達と同じ人間が暮らす世界を発見しましたの」
「もう一つの世界…だって!?」
「ええ、しかしその世界の住人は、魔力を持たない人々の集まり…。そこでわたくしが、このクリスタル・コアの力をもって、より良い世界へと導き、わたくしのわたくしによるわたくしの為の帝国を築き上げようと思いますの。素敵なプロジェクトだと思いませんこと?」
クスクスと笑いを浮べるマリー。
そんな彼女の様子に、リュースは激昂した。
「…クリスタル・ワールドを破壊し、私利私欲の為に、もう一つの世界を征服せんとするとは、なんと破廉恥な!! そんな事は、絶対に許さない!!」
リュースは、腰に携えた短剣を抜き、勇猛果敢に走り出した。
そして、力強く地面を蹴り上げ、空高く舞い、マリー目掛けて短剣を振り下ろす。
だが、彼女の周りには、見えないバリアが張られていたらしく、リュースの身体は弾き飛ばされてしまった。
「オホホホ…無駄な事ですわ。クリスタル・コアの力の一部を取り込んだわたくしに、適う相手のなどいませんわ。…そう、今のわたくしは、宮廷魔術師・マリーではなく…新しき世界を創る偉大な魔女・ナイトメア・マリーですわ!!」
マリーがそう叫んだ瞬間、彼女の手の中にあったクリスタルから、ドス黒い稲光を放ち、リュースの胸を貫いた。
「うわああああっっっ!!」
稲光が全身を駆け巡り、リュースは壁に叩きつけられ、地面へと投げ出された。
ナイトメア・マリーは、グッタリしているリュースを見つめ、ニヤリと笑みを浮べる。
「ウフフフ…リュース様…貴方は、クリスタル・ワールド最後の王子として、勇ましく散った…と、もう一つの世界で語り継いで上げますわ。それがお世話になったわたくしの、せめてもの感謝の気持ちですわよ…オーホッホッホッ!!」
高らかに笑い、フワリと空中に浮かぶマリー。
すると、彼女の背後の空間が歪み始め、漆黒の空間が姿を現した。
「それでは、ごきげんよう…リュース様、クリスタル・ワールド……オーホッホッホッ!!!」
”コアの間”全体に、マリーの笑いが響き渡り、その声がフォードアウトしていったかと思うと、もうそこに彼女の姿は無かった。
リュースは、呻きながら、ボロボロになった身体をなんとか起こした。
「うう…マ、マリー……を…止めなく……ては…!!」
そう言いながら、ヨロヨロと立ち上がり、台座へと向かおうとするが、直ぐに足がもつれて倒れこんでしまった。
その時”コアの間”に、ティーダがやって来た。
「リュース様っ!!」
ティーダは、傷だらけのリュースを見て、慌てて駆け寄った。
「うう……ティーダ…」
「な、何があったの!? しっかりしてよ、リュース様!!」
「ぼ、僕は大丈夫…それよりも、早く…マリーを…!!」
「マリー!? マリーが一体どうしたの!?」
リュースは、ティーダの両肩を握り締め、搾り出すように言った。
「…よく聞くのです、ティーダ……この世界が、マリーの手によって、危機に瀕しています……彼女を追って下さい…」
「ええっ!? ど、どういうこと!?」
「説明しているヒマは…ありません……マリーの残留思念が消えない内に……早く!!」
「わ、わかった!!」
事態が緊迫している、という事を察したティーダは、クリスタル・コアがあった台座へと走りよると、辺りを見回した。
すると、台座の背後に、マリーがワープしたと思われる、僅かな空間の歪みを見つけた。
ティーダは、目を閉じて意識を集中させると、歪みが大きく広がり、暗黒の空間が口を開けた。
「リュース様……行って来ます!!」
「頼みます…ティーダ!!」
こちらを振り返り、叫ぶティーダに、リュースは深く頷いて、力強く叫んだ。
リュースの願いと、クリスタル・ワールドの運命を背負って、少年は、もう一つの世界へと旅立った―。
壁や柱に寄りかかり、何度も転びながらも、彼は目的地へと歩を進めた。
迷路のように入り組んだ回廊をひたすら前へ進んだ。
この世界を崩壊へと誘う元凶を突き止める為に。
やがて、永遠にも思える時間を掛けて神殿を抜けたリュースの目の前に、ようやく”コアの間”が姿を現した。
数十メートルはあろうかという、巨大な鉄の扉が圧倒的な威圧感で、彼を迎える。
リュースは、額に浮かんだ大粒の汗を拭い、辺りを見回し―戦慄した。
鉄扉の周囲に、バラバラに引き千切られた鎖が散乱している。
これは、扉を封印するために、神殿に仕える宮廷魔術師たちが施した、強力な魔法の鎖だ。
それが、何者かの手によって、破壊されているのだ。
『”コアの間”の扉の封印が解かれている…!?』
彼の脳裏に、最悪の考えが過ぎる。
そして、ラーラの言っていた言葉が、フラッシュバックで蘇る―。
『マリーが……宮廷魔術師のマリーが……!!』
リュースは、すぐさま扉に駆け寄ると、渾身の力を込めて、押し開けた。
重厚な音を立てながら、ゆっくりと開いていく扉。
顔を歪ませながら、なんとか扉を開けきったリュースの前に、とんでもない光景が飛び込んできた。
”コアの間”と呼ばれる部屋―その中央に、見事な装飾が施された、金の台座が鎮座していた。
台座からは、数十本の赤い管が伸び、部屋の四方の壁に設置されている、美しい結晶石に繋がっている。
そして、台座の中央には、それらの結晶石よりも遼かに巨大なクリスタルが置いてある…筈だった。
だが、そのクリスタルは、台座には無く、女性の手の中にあった。
クリスタルを手にした―いや、正確には手の平の上に浮かばせた、と言った方がいいだろう―若く美しい女性。
艶めくブロンドの髪、緑色の魔石をあしらったサークレット、そして宮廷魔術師の証である、紅色をしたローブをまとっている。
女性は、妖艶な笑みを浮かべ、クリスタルを見つめていた。
「マ……マリーッ!!」
リュースの叫び声が”コアの間”に響く。
マリーと呼ばれた女性は、ゆっくりと、彼の方を見やった。
「オーホッホッホ、これはこれはリュース様。遅かったですわねぇ?」
「マ、マリー…一体、コレは何の真似ですっ!?」
「何の真似…? 見ての通りですわ。この”クリスタル・コア”を頂きに来ましたの」
悪びれる様子も無く、マリーは言い切った。
「頂く…!? マリー、それを台座から外したら、この世界がどうなるか知らないのですかっ!?」
「あらあら、勿論知っておりますわ…。この”クリスタル・コア”は、この世界の魔力を司る、言わば「心臓」のようなモノ。それを台座から外せば、この地を形成する浮遊大陸は、その力を失い、また大気中のマナも枯れ果てて、やがて世界は終焉を迎える…というワケですわ」
「その通りです!! それを知っていながら…何故!?」
マリーは、リュースの問いに不敵な笑みを浮べた。
「オホホホ…良いですわ、リュース様には特別に教えて差し上げましょう。わたくし、長年の研究で、この”クリスタル・ワールド”の他に、もう一つ、わたくし達と同じ人間が暮らす世界を発見しましたの」
「もう一つの世界…だって!?」
「ええ、しかしその世界の住人は、魔力を持たない人々の集まり…。そこでわたくしが、このクリスタル・コアの力をもって、より良い世界へと導き、わたくしのわたくしによるわたくしの為の帝国を築き上げようと思いますの。素敵なプロジェクトだと思いませんこと?」
クスクスと笑いを浮べるマリー。
そんな彼女の様子に、リュースは激昂した。
「…クリスタル・ワールドを破壊し、私利私欲の為に、もう一つの世界を征服せんとするとは、なんと破廉恥な!! そんな事は、絶対に許さない!!」
リュースは、腰に携えた短剣を抜き、勇猛果敢に走り出した。
そして、力強く地面を蹴り上げ、空高く舞い、マリー目掛けて短剣を振り下ろす。
だが、彼女の周りには、見えないバリアが張られていたらしく、リュースの身体は弾き飛ばされてしまった。
「オホホホ…無駄な事ですわ。クリスタル・コアの力の一部を取り込んだわたくしに、適う相手のなどいませんわ。…そう、今のわたくしは、宮廷魔術師・マリーではなく…新しき世界を創る偉大な魔女・ナイトメア・マリーですわ!!」
マリーがそう叫んだ瞬間、彼女の手の中にあったクリスタルから、ドス黒い稲光を放ち、リュースの胸を貫いた。
「うわああああっっっ!!」
稲光が全身を駆け巡り、リュースは壁に叩きつけられ、地面へと投げ出された。
ナイトメア・マリーは、グッタリしているリュースを見つめ、ニヤリと笑みを浮べる。
「ウフフフ…リュース様…貴方は、クリスタル・ワールド最後の王子として、勇ましく散った…と、もう一つの世界で語り継いで上げますわ。それがお世話になったわたくしの、せめてもの感謝の気持ちですわよ…オーホッホッホッ!!」
高らかに笑い、フワリと空中に浮かぶマリー。
すると、彼女の背後の空間が歪み始め、漆黒の空間が姿を現した。
「それでは、ごきげんよう…リュース様、クリスタル・ワールド……オーホッホッホッ!!!」
”コアの間”全体に、マリーの笑いが響き渡り、その声がフォードアウトしていったかと思うと、もうそこに彼女の姿は無かった。
リュースは、呻きながら、ボロボロになった身体をなんとか起こした。
「うう…マ、マリー……を…止めなく……ては…!!」
そう言いながら、ヨロヨロと立ち上がり、台座へと向かおうとするが、直ぐに足がもつれて倒れこんでしまった。
その時”コアの間”に、ティーダがやって来た。
「リュース様っ!!」
ティーダは、傷だらけのリュースを見て、慌てて駆け寄った。
「うう……ティーダ…」
「な、何があったの!? しっかりしてよ、リュース様!!」
「ぼ、僕は大丈夫…それよりも、早く…マリーを…!!」
「マリー!? マリーが一体どうしたの!?」
リュースは、ティーダの両肩を握り締め、搾り出すように言った。
「…よく聞くのです、ティーダ……この世界が、マリーの手によって、危機に瀕しています……彼女を追って下さい…」
「ええっ!? ど、どういうこと!?」
「説明しているヒマは…ありません……マリーの残留思念が消えない内に……早く!!」
「わ、わかった!!」
事態が緊迫している、という事を察したティーダは、クリスタル・コアがあった台座へと走りよると、辺りを見回した。
すると、台座の背後に、マリーがワープしたと思われる、僅かな空間の歪みを見つけた。
ティーダは、目を閉じて意識を集中させると、歪みが大きく広がり、暗黒の空間が口を開けた。
「リュース様……行って来ます!!」
「頼みます…ティーダ!!」
こちらを振り返り、叫ぶティーダに、リュースは深く頷いて、力強く叫んだ。
リュースの願いと、クリスタル・ワールドの運命を背負って、少年は、もう一つの世界へと旅立った―。
―その地は、厚い雲に覆われていた。
幾層にも重なり合った純白のカーテンを抜けていくと、そこには、人類にとって未知の世界が広がっていた。
大気中には、エメラルドに輝く粒子が溢れ、独特の匂いを漂わせている。
そして、その粒子には、現代科学では解明できないであろう「力」が満ち溢れていた。
「力」は、更に我々に、その存在を示した。
”浮遊大陸”―そう呼ばざる負えないモノが、其処にはあった。
大地から毟り取ったような、巨大な岩塊が、空中に浮遊しているのだ。
大陸には緑が生い茂り、所々に川が流れ、その水が滝のように下界へと流れ落ちている。
更に目を凝らすと、大陸の四方には、数百メートルはあろうかという、光り輝く結晶石がそびえ立っていた。
結晶石からは、緑色の粒子が常に放出され、大気中を舞う光の粒は、此処から生み出されているという事がわかる。
我々は次に、この結晶石の他に、大陸には幾つかの人工的に造られた建造物がある事に気が付くだろう。
建物は、中世ヨーロッパのゴシック建築を彷彿とさせるもので、壁や柱に繊細な装飾が施され、見る者に圧倒的な存在感を与えている。
同時に、その建物からも、強い「力」が発せられている事を感じた。
此処は、我々が知らない世界。
しかし此処は、確かに実在する世界。
その世界の名は『クリスタル・ワールド』という―。
其処は、礼拝堂にも似た場所だった。
大理石の壁に囲まれ、様々な配色が成されたステンドグラスが、日の光を受け、巨大な窓を華やかに彩っている。
中央には赤い絨毯が敷かれ、その先には、黄金で造られたと思われる立派な玉座があった。
玉座には、中世ヨーロッパの貴族風の豪華絢爛な服を身にまとった青年が座っていた。
青年の肌は透き通るように白く、美しい銀色の髪が、身を動かす度に揺れる。
その高貴な出で立ちから、彼がこの世界で重要なポストに属している人物だと窺い知る事が出来た。
青年の前には、1人の少年の姿があった。
年の功は10歳くらいだろうか、まだあどけなさが残っている。
青年と少年の間には、透明な机が置かれていた。
机の上には、赤いボードと、奇妙な形をした黒い駒がいくつも載っており、2人はそれを交互に動かしていた。
おそらく、この世界におけるボードゲームの一種なのだろう。
と、突然少年が天を仰ぎ、紫色の髪を片手でかき乱した。
「ああ、もう!! またリュース様の勝ちだ!! 何で勝てないんだろう?」
ぷうっと頬を膨らませる少年を見て、リュースと呼ばれた青年は、にこやかな笑顔をみせた。
「ティーダはいつも同じ手を使うからですよ。ゲームというのは、直感だけでは勝てないモノなのです」
精悍な顔付きながら、実にやんわりとした口調で、リュースが言うと、ティーダと呼ばれた少年は「またその台詞?」といった表情をみせた。
ティーダは、これでこのゲームに125戦125敗なのだった。
この2人の穏やかな一時は、クリスタル・ワールドの昼下がりの日課だった。
しかし、始まりというのは、いつでも突然なのである。
”日常”の中に”非日常”が出現する事は、どの世界でも変わらないのだ。
リュースとティーダが、駒を置く音しかしなかった空間に、悲鳴が響いた。
「リュース様!! リュース様!! 大変で御座います!!」
息を切らしながらも、なんとか大声を張り上げ、赤い絨毯をバタバタと踏み鳴らして、ふくよかな女性が、リュース達の元へとやって来た。
フリルの付いたエプロンドレスを身に纏い、栗色の髪をなびかせたこの女性は、リュースのメイドの1人であるラーラだ。
ラーラは、何度も転びそうになりながら、リュース達がいる玉座に辿り着くと、ぜぃぜぃと肩で息をしながらうずくまってしまった。
「…ラーラ、一体何があったんです? そんなに慌てて」
「ハァハァ……リュ、リュース様っ!! 早く”コアの間”へ!! 大変なんですわぁっ!!」
ラーラは、リュースの服の袖を強く引っ張りながら訴えた。
「”コアの間”へ…? 一体何が…?」
「マリーが……宮廷魔術師のマリーが……!!」
ラーラが、そう口にした瞬間、突如として、部屋が大きく揺れ始めた。
地面から突き上げられるような振動が、3人を遅い、ステンドガラスが次々と砕け散る。
「な…何だよ!? 何が起こっているんだよ!?」
激しい振動に、腹這になりながらティーダが叫ぶ。
リュースも、身体が投げ出されないように何とか堪えながら、ラーラの肩を掴んだ。
「ラーラ!! ”コアの間”ですね!? ”コアの間”に行けば…!!」
「ひいいいい…そ、そうです!! た、助けてくださいリュース様ぁっ!!!」
甲高い声を上げながらラーラが”コアの間”と呼ばれた部屋の方を指さした。
リュースは小さく頷くと、激しい振動の中、部屋を急いで駆け出した。
『一体、何が起こっているんだ…?』
”コアの間”へと向かうリュースの脳裏には、疑問と不吉な予感が渦巻いていた―。
光が、強大な闇に引き込まれようとしていた。
憎しみと哀しみが幾重にも折り重なった、忌まわしき黒い翼が、大天使・ジュノンの華奢な身体を締め上げ、そして粉砕しようしていた。
激痛の檻に閉じ込められた彼女の命の灯火が、消えかけようとしていた、その時―。
ジュノンを包み込んでいた翼の隙間という隙間から、まばゆい光が放出された。
四方八方に拡散していく光は、同時に白き大天使を縛る闇の鎖を粉々に引き裂いていく。
決して破られる事は無いと思われていた戒めが解かれると、其処には純白の女神が、失われかけていた光の力を激しく放出していた。
『…グゥアアッッ!?』
黒き翼を引き千切られ、少女が悲鳴を上げた。
ジュノンの圧倒的なプレッシャーに圧され、僅かに後退する。
「…あたしは……約束したの……アテナを…この世界を護るって……」
静かに、しかし凄みを含んだ声で、ジュノンが呟く。
そして、口元からながれる赤い鮮血を拳で拭うと、鋭い目つきで、少女を睨み付ける。
「だから……貴方を止めるまで、あたしは死ねないのよっ!!」
白き大天使はそう叫ぶと、一気に少女との間を詰め、右拳を振り上げる。
少女はとっさに黒き翼で全身を覆い、ジュノンの攻撃を防ごうとした。
が、白き大天使の拳は、青白い軌跡を残しながら、漆黒の盾を突き破っていき、ついには少女の顔面を捉えた。
ガラスが割れるような破砕音が響き渡り、少女を包んでいた悪しき波動が砕かれる。
粉々になった翼が、辺り一面にバラまかれ、黒い雪を降らせた。
そして、少女の本来の姿―青いコスチュームを身にまとった天使―を浮かび上がらせた。
「この娘の…本当の…姿…?」
悪しき力が、徐々に失われていく感覚が、ジュノンの全身に広がっていく。
もしかしたら、本来の姿に戻す事が出来たのか―?
白き大天使は、警戒しながらも、ゆっくりと少女に近づいていく。
少女は、先程とはうって変わって、穏やかな表情で、静かに目を閉じている。
意識は感じられず、ただ其処に浮かんでいる―そんな感じだ。
ジュノンは、慎重に少女の側に寄り、彼女の意識が無い事を確認すると、そっと肩を抱いた。
『…力が……消えた?』
ジュノンは、不快な感覚が完全に消えたことに戸惑いながらも、眠るように目を閉じている少女の顔を見つめ続けた。
「この娘が…”呪われし翼”を持つ者…。あたしは…この娘を……光の世界に返さなければいけない…」
アテナの言葉を思い出しながら、ジュノンは自分に言い聞かせるように呟く。
だが、穏やかな表情に戻った少女の姿は、それを躊躇させるものだった。
すると、意識が戻ったのか、少女はゆっくりと目を開けた。
そして、その視線は自分の肩を抱く、ジュノンに向けられる。
その瞳には、やはり禍々しい影は映ってはいない。
「…大丈夫?」
意を決したように、そう問いかけるジュノン。
少女は、不思議そうな表情を見せながら、小さく頷く。
「良かった…。あたしは、大天使・ジュノン。…貴方の名前は?」
「…んっ……あ…たし……あたしは………」
少女が、自らの名前を言おうとした瞬間―突然、彼女の表情が歪む。
そして同時に、身体を仰け反らせながら、悲鳴を上げ始めた。
「どうしたのっ…!?」
ジュノンは慌てて、少女の身体を抱きしめるように押さえつける。
すると、少女の表情が変わり、口元には不気味な笑みが浮かんだ。
「あぐっ!?」
次の瞬間、ジュノンは少女に押し倒されるように、地面に叩きつけられた。
ジュノンの上に馬乗りになった少女は、ケタケタと笑いながら、彼女の首を両手で締め上げ始めた。
「がふっ!! あくぅ……ぐっ……かはっ…」
完全に不意を突かれた形になり、ジュノンは自分の判断ミスを呪った。
少女の十本の指が、頚動脈を押し潰す勢いで締め上げてくる。
「……ぐぶっ…がっ……くはぅっ…!!」
足をバタつかせ、なんとか体勢を立て直そうするジュノンだが、少女の全体重が圧し掛かっており、それもままならない状況だ。
やがて、白き大天使の口から、大量の唾液が漏れだし、呻き声をくぐもらせる。
『許さない……あたしは……!! 絶対に…許さないっ!!』
前にも発した台詞を吐きながら、少女はジュノンの首を更に強く締め上げる。
「うぅっぐっ!! …ぐ……ぅ…!!」
ジュノンの顔が紅潮し、瞳から光が失われていく。
遠ざかりそうな意識を必死に保ちながら、白き大天使は、なんとか脱出の機会を伺う。
と、その時―ジュノンの脳裏に、一つの言葉が浮かんだ。
『そうだ…っ!! この娘……さっき…”リン”って言ってた…筈…!!』
少女が口にした「リン」という言葉。
この言葉が何か重要な意味を示しているのかもしれない。
『今は……それに賭けるしか……ないっ……!!』
ジュノンは、自分の首を締め上げている少女の両手を掴み、渾身の力を込めた。
すると僅かにだが、圧迫感が弱まる。
「…くぅっ……リ…リンって……誰の…事っ……!?」
搾り出すように、か細い声で少女に問いかけるジュノン。
少女はその言葉にハッとなり、首を絞める力を弱める。
ジュノンは、自分の賭けが成功している事を信じ、続けた。
「おし……えてっ……リ…ンって……あな…たに……何を…したの…!?」
必死の形相で、少女に問いかけ続けるジュノン。
彼女の言葉に、明らかに異常な反応を見せる少女。
やがて、ジュノンに圧し掛かっていた力が、完全に緩み始める。
「…くうっ!!」
絶好のチャンスを逃すまいと、ジュノンは少女の両手首を掴み、一気に引き離す。
更に少女の腹部を両足で蹴り上げ、一気に彼女との距離を広げた。
「かはっ!! くぅ…!!」
喉を押さえながら、呼吸を整えるジュノン。
そして、朦朧としている意識を何とか奮い立たせるように、頭を左右に振った。
『やっぱり……”リン”って言葉に反応してる…一体…誰の事なの?』
険しい表情で自問自答するジュノン。
そうしている内に、少女は再び怒りの表情を取り戻し、白き大天使に向かって突進してきた。
「くうっ!!」
重みのある少女のパンチを、両腕でガードするジュノン。
少女はなりふり構わずといった様子で、パンチを繰り出し、ジュノンは何とかそれをガードするといった攻防が続く。
『くっ……このままじゃ…ジリ貧ね…』
ジュノンは、心の中でそう呟くと、覚悟を決めたような表情を見せた。
そしてガードを解き、少女の右腕を掴み、捻り上げた。
「ぐううっ!?」
顔面を歪ませ、悲鳴を上げる少女。
白き大天使は、更に腕を捻り上げ、完全に少女の動きを封じる。
「アテナ…貴方の言葉通り……あたしは……!!」
ジュノンはそう叫ぶと、全身に光の力を集め始めた―。
憎しみと哀しみが幾重にも折り重なった、忌まわしき黒い翼が、大天使・ジュノンの華奢な身体を締め上げ、そして粉砕しようしていた。
激痛の檻に閉じ込められた彼女の命の灯火が、消えかけようとしていた、その時―。
ジュノンを包み込んでいた翼の隙間という隙間から、まばゆい光が放出された。
四方八方に拡散していく光は、同時に白き大天使を縛る闇の鎖を粉々に引き裂いていく。
決して破られる事は無いと思われていた戒めが解かれると、其処には純白の女神が、失われかけていた光の力を激しく放出していた。
『…グゥアアッッ!?』
黒き翼を引き千切られ、少女が悲鳴を上げた。
ジュノンの圧倒的なプレッシャーに圧され、僅かに後退する。
「…あたしは……約束したの……アテナを…この世界を護るって……」
静かに、しかし凄みを含んだ声で、ジュノンが呟く。
そして、口元からながれる赤い鮮血を拳で拭うと、鋭い目つきで、少女を睨み付ける。
「だから……貴方を止めるまで、あたしは死ねないのよっ!!」
白き大天使はそう叫ぶと、一気に少女との間を詰め、右拳を振り上げる。
少女はとっさに黒き翼で全身を覆い、ジュノンの攻撃を防ごうとした。
が、白き大天使の拳は、青白い軌跡を残しながら、漆黒の盾を突き破っていき、ついには少女の顔面を捉えた。
ガラスが割れるような破砕音が響き渡り、少女を包んでいた悪しき波動が砕かれる。
粉々になった翼が、辺り一面にバラまかれ、黒い雪を降らせた。
そして、少女の本来の姿―青いコスチュームを身にまとった天使―を浮かび上がらせた。
「この娘の…本当の…姿…?」
悪しき力が、徐々に失われていく感覚が、ジュノンの全身に広がっていく。
もしかしたら、本来の姿に戻す事が出来たのか―?
白き大天使は、警戒しながらも、ゆっくりと少女に近づいていく。
少女は、先程とはうって変わって、穏やかな表情で、静かに目を閉じている。
意識は感じられず、ただ其処に浮かんでいる―そんな感じだ。
ジュノンは、慎重に少女の側に寄り、彼女の意識が無い事を確認すると、そっと肩を抱いた。
『…力が……消えた?』
ジュノンは、不快な感覚が完全に消えたことに戸惑いながらも、眠るように目を閉じている少女の顔を見つめ続けた。
「この娘が…”呪われし翼”を持つ者…。あたしは…この娘を……光の世界に返さなければいけない…」
アテナの言葉を思い出しながら、ジュノンは自分に言い聞かせるように呟く。
だが、穏やかな表情に戻った少女の姿は、それを躊躇させるものだった。
すると、意識が戻ったのか、少女はゆっくりと目を開けた。
そして、その視線は自分の肩を抱く、ジュノンに向けられる。
その瞳には、やはり禍々しい影は映ってはいない。
「…大丈夫?」
意を決したように、そう問いかけるジュノン。
少女は、不思議そうな表情を見せながら、小さく頷く。
「良かった…。あたしは、大天使・ジュノン。…貴方の名前は?」
「…んっ……あ…たし……あたしは………」
少女が、自らの名前を言おうとした瞬間―突然、彼女の表情が歪む。
そして同時に、身体を仰け反らせながら、悲鳴を上げ始めた。
「どうしたのっ…!?」
ジュノンは慌てて、少女の身体を抱きしめるように押さえつける。
すると、少女の表情が変わり、口元には不気味な笑みが浮かんだ。
「あぐっ!?」
次の瞬間、ジュノンは少女に押し倒されるように、地面に叩きつけられた。
ジュノンの上に馬乗りになった少女は、ケタケタと笑いながら、彼女の首を両手で締め上げ始めた。
「がふっ!! あくぅ……ぐっ……かはっ…」
完全に不意を突かれた形になり、ジュノンは自分の判断ミスを呪った。
少女の十本の指が、頚動脈を押し潰す勢いで締め上げてくる。
「……ぐぶっ…がっ……くはぅっ…!!」
足をバタつかせ、なんとか体勢を立て直そうするジュノンだが、少女の全体重が圧し掛かっており、それもままならない状況だ。
やがて、白き大天使の口から、大量の唾液が漏れだし、呻き声をくぐもらせる。
『許さない……あたしは……!! 絶対に…許さないっ!!』
前にも発した台詞を吐きながら、少女はジュノンの首を更に強く締め上げる。
「うぅっぐっ!! …ぐ……ぅ…!!」
ジュノンの顔が紅潮し、瞳から光が失われていく。
遠ざかりそうな意識を必死に保ちながら、白き大天使は、なんとか脱出の機会を伺う。
と、その時―ジュノンの脳裏に、一つの言葉が浮かんだ。
『そうだ…っ!! この娘……さっき…”リン”って言ってた…筈…!!』
少女が口にした「リン」という言葉。
この言葉が何か重要な意味を示しているのかもしれない。
『今は……それに賭けるしか……ないっ……!!』
ジュノンは、自分の首を締め上げている少女の両手を掴み、渾身の力を込めた。
すると僅かにだが、圧迫感が弱まる。
「…くぅっ……リ…リンって……誰の…事っ……!?」
搾り出すように、か細い声で少女に問いかけるジュノン。
少女はその言葉にハッとなり、首を絞める力を弱める。
ジュノンは、自分の賭けが成功している事を信じ、続けた。
「おし……えてっ……リ…ンって……あな…たに……何を…したの…!?」
必死の形相で、少女に問いかけ続けるジュノン。
彼女の言葉に、明らかに異常な反応を見せる少女。
やがて、ジュノンに圧し掛かっていた力が、完全に緩み始める。
「…くうっ!!」
絶好のチャンスを逃すまいと、ジュノンは少女の両手首を掴み、一気に引き離す。
更に少女の腹部を両足で蹴り上げ、一気に彼女との距離を広げた。
「かはっ!! くぅ…!!」
喉を押さえながら、呼吸を整えるジュノン。
そして、朦朧としている意識を何とか奮い立たせるように、頭を左右に振った。
『やっぱり……”リン”って言葉に反応してる…一体…誰の事なの?』
険しい表情で自問自答するジュノン。
そうしている内に、少女は再び怒りの表情を取り戻し、白き大天使に向かって突進してきた。
「くうっ!!」
重みのある少女のパンチを、両腕でガードするジュノン。
少女はなりふり構わずといった様子で、パンチを繰り出し、ジュノンは何とかそれをガードするといった攻防が続く。
『くっ……このままじゃ…ジリ貧ね…』
ジュノンは、心の中でそう呟くと、覚悟を決めたような表情を見せた。
そしてガードを解き、少女の右腕を掴み、捻り上げた。
「ぐううっ!?」
顔面を歪ませ、悲鳴を上げる少女。
白き大天使は、更に腕を捻り上げ、完全に少女の動きを封じる。
「アテナ…貴方の言葉通り……あたしは……!!」
ジュノンはそう叫ぶと、全身に光の力を集め始めた―。




