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CRISIS ANGELS 蒼き格闘天使 リディア 第8話 『器』
CRISIS ANGELS
闘うおねーさんは好きですか?
蒼き格闘天使 リディア 第8話 『器』
「…此処ね」

大天使・ジュノンはそう呟くと、その視線を一点に集中させた。

アテナが、異質の力を感じ取った場所。
偶然か必然か、そこは地上界―しかも、ジュノンが生まれ育った日本だった。

彼女が此処に、到着した瞬間から、全身に言い表しようの無い、感覚が駆け巡っている。
明らかに悪意を持った”何か”が存在している。

この世界のバランスを崩壊させてしまうかも知れない力を持った、何かが。

白き大天使は、大きく息を一つ吐き、静かに目を閉じた。
と、同時に彼女の身体を青白い光が包み込んでいく。


『全て……光の世界へ』


ふと、アテナの言葉が、ジュノンの脳裏を過ぎる。
彼女は唇をキュッと噛み締めながら、更に意識を集中させた。

すると、白き大天使の目の前に、円形の異界への門<ゲート>が出現した。

ゲートの中心部は、あの黒き堕天使・ミカエルが出現した空間と同じく、漆黒の闇に覆われている。
ドス黒い液体のように、ゆらゆらと揺らめくその空間からは、溶岩が沸騰する音にも似た、不気味な旋律が聞こえていた。
ジュノンは、ゆっくりと目を開けると、意を決したように、光の翼を大きく展開させ、一直線に門<ゲート>へと突貫した。

粉雪が混ざる吹雪の中に現れた異界への入口は、青白く輝く大天使の身体を、一瞬で包み込むと、蜃気楼の様にぼやけていき、やがて姿を消した。


『この感じ……相当ヤバいかも…』


門<ゲート>をくぐった瞬間、ジュノンは、全身にまとわり付く不快感に、顔をしかめた。
途方も無い悪意が、この空間を支配している。
しかし、その悪意から、僅かな”哀しみ”も感じ取る事が出来た。


『誰かが…泣いてる…?』


白き大天使は、その場に静止すると、目を閉じて耳を澄ました。
彼女の周りに流れる、不気味な音の中に、微かに少女の泣き声が聞こえた。

そして同時に―。


『ユル…サ……ナイ………!!』


凄まじい怨念を含んだ叫びが、辺りに響いた。

ハッとして顔を上げるジュノン。
直ぐに背後を振り返ると、漆黒の空間の奥から、激しい重圧<プレッシャー>が、迫って来る。
計り知れない、憎悪と哀しみが、白き大天使を襲った。

やがて衝撃音が響き渡り、あちらこちらから、青い稲光が発生する。

そして、黒い影が現れた。
恐るべき力を持った影が。


「…呪われし翼を……持つ者……!!」


険しい表情で、ジュノンは叫んだ。
すると、彼女の声に応えるかのように、影がはっきりと、その姿を現した。

天空高く伸びた、鋭利な刃物にも似た、ドス黒い翼を持った少女。
泥と埃にまみれた紫色の髪を揺らし、全身を僅かに震わせながら、その少女はその場で浮遊していた。


「…あたしは、大天使・ジュノン。天上界の主・アテナを護る存在よ」


白き大天使・ジュノンは、並大抵の者ならば、押し潰されそうな程の重圧に堪えながら、眼前に立つ脅威に問い掛けた。
だが、黒き翼を持った少女は、何も答えない。

構わずに、ジュノンは続けた。


「貴方が…”呪われし翼”を持つ者……そうね?」


2度目の問いにも、少女は答えなかった。
その代わりに、顔を上げ、白き大天使を見つめた。
その表情は、怒りに満ち溢れていた。

そして、再びあの叫びを発した。


『ユル……サ…ナイ…ッ!!』


次の瞬間、少女の背中から伸びた翼が、次々と枝分かれし、鞭の様にジュノンに襲い掛かって来た。

「…!!」

白き大天使は、超人的な反射を見せ、光の翼をはためかせて、少女の攻撃を回避する。
少しでも飛び立つタイミングが遅れていれば、刃物のように尖った翼の先端が、彼女の身体に突き刺さっていただろう。


「問答無用ってワケね…!」


ジュノンは休む間も無く、自分を追尾してくる翼を、巧みに回避しながら、そう呟いた。

一瞬でも気を抜けば、確実に殺られる―。
これまで、いくつもの修羅場を経験してきた大天使は、そう自分に言い聞かせながら、反撃のチャンスを伺っていた。
すると、四方八方から迫ってくる翼と翼の間に、僅かな空間が空いた。

「…もらった!!」

ジュノンは、その空間目掛けて猛スピードで突進し、ノーガードで浮遊する、少女の身体に、渾身の右ストレートを叩き込んだ。

だが、白き大天使の右拳が命中する瞬間、紫色に輝くバリアのような存在が、少女の身体を保護する。

「…!?」

自らの攻撃を防がれ、ジュノンの身体が、僅かに後ろに後退する。
その隙を狙って、鞭状の翼が、白き大天使の細い首に巻きついた。

「うぐっ!」

凄まじい力で引っ張り上げられ、ジュノンの身体が、少女の側から引き離される。
そして、無数に枝分かれした翼が、次々と彼女の身体に巻きついていった。

「ぐぅ……あぐぅっ……うぅ…」

胸や腰、両手両足といった、身体の全ての箇所を、翼でがんじがらめに捕らえられ、ジュノンは完全に動きを封じ込まれてしまった。
更に巻きついた翼は、ギリギリと彼女の身体を締め上げ、どんどんと体力を奪っていく。

「ううっ…! ぐっ……くううっっ!!」

なんとか翼の拘束から逃れようと、必死にもがこうとするジュノンだったが、全身の関節を極められている上に、激しい締め付けによる体力の低下で、それもままならない状態だった。


『ユル……サ……ナイ………アタシハ………”リン”…ヲ……!!』


また、声が聞こえてきた。
全身を締め上げられ、意識が徐々に薄れてきているジュノンの耳にも、ハッキリと届くほどの声が。


「うぅ……リ…リン…?」


苦痛に顔を歪めながら、ジュノンは”リン”という言葉を口にした。
すると、その言葉を聞いた少女の表情が、一瞬だけ変わり、彼女は腹の底から搾り出すような叫びを上げた。



『ウアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!』



少女の叫び声に反応するかのように、ジュノンを締め上げる力が増す。
彼女の身体を引き千切ってしまいそうな勢いで、翼が皮膚に食い込んでいく。


「がふうぅっっ!?」


目を見開き、頭を仰け反らせるジュノン。
口からは、真っ赤な血の塊が吐き出され、彼女の純白のコスチュームを紅に染め上げる。


そして、ビクビクと身体を痙攣させながら、白き大天使は、ゆっくりとその頭を垂れた―。
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