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CRISIS ANGELS 蒼き格闘天使 リディア 第8話 『器』
CRISIS ANGELS
闘うおねーさんは好きですか?
蒼き格闘天使 リディア 第8話 『器』
光が、強大な闇に引き込まれようとしていた。

憎しみと哀しみが幾重にも折り重なった、忌まわしき黒い翼が、大天使・ジュノンの華奢な身体を締め上げ、そして粉砕しようしていた。
激痛の檻に閉じ込められた彼女の命の灯火が、消えかけようとしていた、その時―。

ジュノンを包み込んでいた翼の隙間という隙間から、まばゆい光が放出された。

四方八方に拡散していく光は、同時に白き大天使を縛る闇の鎖を粉々に引き裂いていく。
決して破られる事は無いと思われていた戒めが解かれると、其処には純白の女神が、失われかけていた光の力を激しく放出していた。


『…グゥアアッッ!?』


黒き翼を引き千切られ、少女が悲鳴を上げた。
ジュノンの圧倒的なプレッシャーに圧され、僅かに後退する。


「…あたしは……約束したの……アテナを…この世界を護るって……」


静かに、しかし凄みを含んだ声で、ジュノンが呟く。
そして、口元からながれる赤い鮮血を拳で拭うと、鋭い目つきで、少女を睨み付ける。


「だから……貴方を止めるまで、あたしは死ねないのよっ!!」


白き大天使はそう叫ぶと、一気に少女との間を詰め、右拳を振り上げる。
少女はとっさに黒き翼で全身を覆い、ジュノンの攻撃を防ごうとした。

が、白き大天使の拳は、青白い軌跡を残しながら、漆黒の盾を突き破っていき、ついには少女の顔面を捉えた。

ガラスが割れるような破砕音が響き渡り、少女を包んでいた悪しき波動が砕かれる。
粉々になった翼が、辺り一面にバラまかれ、黒い雪を降らせた。

そして、少女の本来の姿―青いコスチュームを身にまとった天使―を浮かび上がらせた。


「この娘の…本当の…姿…?」


悪しき力が、徐々に失われていく感覚が、ジュノンの全身に広がっていく。
もしかしたら、本来の姿に戻す事が出来たのか―?

白き大天使は、警戒しながらも、ゆっくりと少女に近づいていく。

少女は、先程とはうって変わって、穏やかな表情で、静かに目を閉じている。
意識は感じられず、ただ其処に浮かんでいる―そんな感じだ。

ジュノンは、慎重に少女の側に寄り、彼女の意識が無い事を確認すると、そっと肩を抱いた。

『…力が……消えた?』

ジュノンは、不快な感覚が完全に消えたことに戸惑いながらも、眠るように目を閉じている少女の顔を見つめ続けた。

「この娘が…”呪われし翼”を持つ者…。あたしは…この娘を……光の世界に返さなければいけない…」

アテナの言葉を思い出しながら、ジュノンは自分に言い聞かせるように呟く。
だが、穏やかな表情に戻った少女の姿は、それを躊躇させるものだった。

すると、意識が戻ったのか、少女はゆっくりと目を開けた。
そして、その視線は自分の肩を抱く、ジュノンに向けられる。

その瞳には、やはり禍々しい影は映ってはいない。


「…大丈夫?」


意を決したように、そう問いかけるジュノン。
少女は、不思議そうな表情を見せながら、小さく頷く。


「良かった…。あたしは、大天使・ジュノン。…貴方の名前は?」
「…んっ……あ…たし……あたしは………」


少女が、自らの名前を言おうとした瞬間―突然、彼女の表情が歪む。
そして同時に、身体を仰け反らせながら、悲鳴を上げ始めた。

「どうしたのっ…!?」

ジュノンは慌てて、少女の身体を抱きしめるように押さえつける。
すると、少女の表情が変わり、口元には不気味な笑みが浮かんだ。

「あぐっ!?」

次の瞬間、ジュノンは少女に押し倒されるように、地面に叩きつけられた。
ジュノンの上に馬乗りになった少女は、ケタケタと笑いながら、彼女の首を両手で締め上げ始めた。

「がふっ!! あくぅ……ぐっ……かはっ…」

完全に不意を突かれた形になり、ジュノンは自分の判断ミスを呪った。
少女の十本の指が、頚動脈を押し潰す勢いで締め上げてくる。

「……ぐぶっ…がっ……くはぅっ…!!」

足をバタつかせ、なんとか体勢を立て直そうするジュノンだが、少女の全体重が圧し掛かっており、それもままならない状況だ。
やがて、白き大天使の口から、大量の唾液が漏れだし、呻き声をくぐもらせる。


『許さない……あたしは……!! 絶対に…許さないっ!!』


前にも発した台詞を吐きながら、少女はジュノンの首を更に強く締め上げる。

「うぅっぐっ!! …ぐ……ぅ…!!」

ジュノンの顔が紅潮し、瞳から光が失われていく。
遠ざかりそうな意識を必死に保ちながら、白き大天使は、なんとか脱出の機会を伺う。

と、その時―ジュノンの脳裏に、一つの言葉が浮かんだ。


『そうだ…っ!! この娘……さっき…”リン”って言ってた…筈…!!』


少女が口にした「リン」という言葉。
この言葉が何か重要な意味を示しているのかもしれない。


『今は……それに賭けるしか……ないっ……!!』


ジュノンは、自分の首を締め上げている少女の両手を掴み、渾身の力を込めた。
すると僅かにだが、圧迫感が弱まる。

「…くぅっ……リ…リンって……誰の…事っ……!?」

搾り出すように、か細い声で少女に問いかけるジュノン。
少女はその言葉にハッとなり、首を絞める力を弱める。

ジュノンは、自分の賭けが成功している事を信じ、続けた。

「おし……えてっ……リ…ンって……あな…たに……何を…したの…!?」

必死の形相で、少女に問いかけ続けるジュノン。
彼女の言葉に、明らかに異常な反応を見せる少女。

やがて、ジュノンに圧し掛かっていた力が、完全に緩み始める。

「…くうっ!!」

絶好のチャンスを逃すまいと、ジュノンは少女の両手首を掴み、一気に引き離す。
更に少女の腹部を両足で蹴り上げ、一気に彼女との距離を広げた。

「かはっ!! くぅ…!!」

喉を押さえながら、呼吸を整えるジュノン。
そして、朦朧としている意識を何とか奮い立たせるように、頭を左右に振った。


『やっぱり……”リン”って言葉に反応してる…一体…誰の事なの?』


険しい表情で自問自答するジュノン。
そうしている内に、少女は再び怒りの表情を取り戻し、白き大天使に向かって突進してきた。

「くうっ!!」

重みのある少女のパンチを、両腕でガードするジュノン。
少女はなりふり構わずといった様子で、パンチを繰り出し、ジュノンは何とかそれをガードするといった攻防が続く。

『くっ……このままじゃ…ジリ貧ね…』

ジュノンは、心の中でそう呟くと、覚悟を決めたような表情を見せた。
そしてガードを解き、少女の右腕を掴み、捻り上げた。

「ぐううっ!?」

顔面を歪ませ、悲鳴を上げる少女。
白き大天使は、更に腕を捻り上げ、完全に少女の動きを封じる。


「アテナ…貴方の言葉通り……あたしは……!!」


ジュノンはそう叫ぶと、全身に光の力を集め始めた―。
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